どうか、想いさえも響き合うように

この雨の中、速くなる鼓動と共に















"accelerando"
















 「ハルピュイア様!調査結果確認しました。ご帰還下さい」

拓けた荒野。眼前に広がる淡い青の空。
ハルピュイアは一度それを見上げた後、声を掛けてきた少女に向き直った。

 「分かった。ご苦労だった、
「いえ、では、私はこれで!」
にっこりと笑って、と呼ばれた少女は踵を返そうとした。

 特徴的なポニーテールが揺れて、良く動き回る少女に付いていく。
くすりと無意識に笑みを浮かべ、ハルピュイアはこの働き者を見送ろうとした。
「無理はするな。レプリロイドと違って、人間は疲労がたまると倒れるぞ」
言うと、は足を止め、振り返ってにこりと笑った。

 何も言いはしないのだが、その目は「大丈夫です」と笑っているように見える。
ハルピュイアは苦笑して、仕方なくを見送る。



 人間の少女の体力で、よくもまあ、あれだけくるくる動けるものだ。そこだけは感心してしまう。
ただ、細かい手作業は人間向きということもある。
ネオ・アルカディアの中枢は、決してレプリロイドだけで担えるものでは無いのだろう。

 「人間とレプリロイドの共存・・・か」
ハルピュイアは呟く。





 エックスがネオ・アルカディアを去って、どれくらい経ったのだろう。
彼がかつて望んでいた『楽園』は、そんなトコロだったハズだった。
人間とレプリロイドが手を取り合い、共に生きることの出来る場所・・・
果たして今、ネオ・アルカディアと呼ばれるこの楽園は、そうあるのだろうか。

 果たして、人間もレプリロイドも、「そうあろう」としているのだろうか。





 「・・・考えても仕方がない、か・・・」
ふ、と息を吐いて、ハルピュイアはまた空を仰いだ。

空を飛ぶことも多い為か、ついつい空を見上げてしまうのがクセになっているようでもある。
空は、淡い青から灰色に変わっていた。
一雨来るのかも知れない。そんなことをぼんやり考えていた。











 『ボクはね、信じているんだ』

 かつて、まだエックスがネオ・アルカディアに居た頃。
エックスは、そんなことを切り出したのを覚えていた。

 『信じている、と言うより・・・信じたいんだ。ヒトとレプリロイドは、いつか争いを止めてくれるだろうって』

 悲しげに、儚げに、近いようで遠い願いを、あの方は口にしていた。
ハルピュイアはそれを、何も言えずに聞いていることしかできなかった。
 かつてエックスの・・・目の前の人物の一部であったハルピュイアの中で、
「それは無理だ」と言う気持ちと、「信じたい」気持ちが入り交じって、言葉にならなかった。

 『ハルピュイアも、信じてくれるかな?』

 そう言って、振り返ったエックスの表情は、どんなものだっただろう。良く思い出せない。



 ああ、そう言えば。あの日もこんな、雨の降り出しそうな日だった気がする。



 『・・・ああ、窓から音がすると思ったら・・・雨だね』

エックスはそう言って、また微笑んだのを思い出す。





 しとしととガラスを叩く音が、何故か鮮明に記憶に焼き付いていた。

 雨音とガラス。エックスの言葉と葛藤。
全ての響きが混ざり合い、ハルピュイアの耳に響き渡っていた。


















 その時初めて、自分の額から雫が滴っているのに気付く。
どうやら雨は降り出してしまったらしい。
ぼんやりしているうちに、随分と時間も経ったようだ。

 らしくないな、と、自嘲気味に苦笑した。



 「ハルピュイア様ー!!!」
その時だった。聞き覚えのある声が耳に届く。
声の方を見やると、走ってくる少女が目にはいる。ポニーテールを揺らす、あの影は。

 「・・・

 ぽつりと、ハルピュイアは少女の名を呼んだ。
微かな声に彼女が気付くはずもなく、はハルピュイアの側まで走ってくると、タオルを強引に手渡した。
「どうかしましたか?天候も崩れてきましたし、早くご帰還下さい」
心配そうに言いながら、拭いてもすぐに濡れていくハルピュイアの表情を覗き込む。
その動作がどこか可愛らしくて、ハルピュイアは思わず微笑んだ。

 滴る雨の雫のように、この子の思いは真っ直ぐだ。



 「俺よりお前が濡れる」

言って、ハルピュイアは差し出されたタオルを取ると、そっとの頭に掛けた。
微かに、の髪が指に触れた。それは柔らかく、レプリロイドには無い、艶やかな髪だった。
「レプリロイドは風邪をひかないが、ヒトは違うだろう?」
ぽかん、としているに、ハルピュイアはそっと呟いた。
その表情は何とも言えず、苦笑しているようにも見える。

 はじっと、ハルピュイアのそんな表情を見つめていた。
あの、何処までも真っ直ぐな瞳のまま。

 「・・・ハルピュイア様、本当に、どうしたんですか?」

 そして何処までも真っ直ぐに、ハルピュイアのココロを突く。
一瞬ハルピュイアは言葉に詰まり、しかし自分とを隔てる雨音を聞いていた。



 「・・・、お前は」



 雨音がする。あの日、あの方と共に聞いた、雨音が。

「レプリロイドとヒトが、いつか争わなくなる、そんな未来が来ると思うか?」

だんだん速くなる鼓動と共に、雨足が強まっていくのが分かる。





 しとしと、しとしと、真っ直ぐに下る雫。

 どくん、どくん、と、だんだん速まる鼓動の音。

 雨と鼓動が、ハルピュイアとを隔てる。





 「それが、ハルピュイア様の望む『楽園(アルカディア) 』なら」

何も聞かず、はそう告げた。
タオルで隠された艶やかな髪の間から、ふわりと柔らかな微笑みを浮かべながら。
雨と鼓動を隔て、を見つめるハルピュイア。
彼の瞳を真っ直ぐ見据え、はもう一度、後押しした。

「・・・きっと、来ます。信じます」

刹那、雨音と鼓動が解け合った気さえした。
全てが二人の為に響いているような、そんな甘い幻想が。
ハルピュイアは俯き加減に、苦笑した。

 「・・・ありがとう」



 雨が、邪魔だ。
本当にその時、そう思った。
この、二人を隔てる雨が邪魔だと。

「本当に、風邪をひかせてしまうな」
気が付けば、手を伸ばしてそっと抱き寄せていた。
隔てる雨は二人の外側で音を立て続ける。

今度は二人を、別世界に引き離していくように。








どうか、想いさえも響き合うように

この雨の中、速くなる鼓動と共に




お題更新三つ目はハルピュイア夢でしたー。
「だんだん速く」でお送りしました。ありがちな連想ですいません(汗)
にしても、私の書くハルピュイアさんは濡れてばっかりのような。
プールに突き落とされたり、雨にざーざー濡れてみたり。
・・・水難の相でも出てるんでしょうかね・・・